パン工場のかまどは、冬は暖炉としても使われる。
なので今までこたつというものはパン工場では見られなかった。
しかし今年はちょっと違う。
ジャムおじさんがかまめしどんから、新しいものが来たので不要になったというこたつを譲り受け、それは二階の一部屋に置かれた。
「みんな、風邪をひかないようにちゃんと半纏を羽織るのよ。まあ」
「おやおや」
全員分の半纏を持ってきたジャムおじさんとバタコさんは、子どもたちの姿に目を細めた。
「おねえちゃん、そこはこうするの」
「こう……?」
こたつの一辺に座ったメロンパンナとロールパンナはそれぞれ編み棒を手にして、慣れない姉に妹がお手本を見せていた。
「そうそう! すごいわおねえちゃん、どんどん上手になってる」
「メロンパンナには敵わない」
「おねえちゃん、あたしがこれまでおねえちゃんにいくつマフラーや手袋を編んだか覚えてる?」
ほとんど毎年、メロンパンナは恒例のようにロールパンナに手編みのマフラーや手袋、
時にはクリスマス用のくつしたまで編んでプレゼントしている。
「そうだった」
そのことを忘れていたわけでは勿論ないが、くすくすと笑うメロンパンナにつられ、ロールパンナは照れ笑いを浮かべた。
その向こう側では、
「はい、カレーパンマンの番ですよ」
「オレここからあやふやなんだよな…えーと」
姉妹からちょっと拝借した毛糸を輪っかにして、うつ伏せに寝転んだしょくぱんまんが指にかけたそれを、同じく隣にうつ伏せているカレーパンマンの方に、肘をついて突き出していた。
頭を捻るカレーパンマンに、その隣の一辺に座っていたアンパンマンが身を乗り出して助け船を出そうとする。
「ここはこれを……」
「ストップ。アンパンマン、君が優しいのは解りますけど、彼に答えを教えるのは無しです」
「なんだよ、けち!」
「けちじゃありません、わたしは公平にゲームを進めたいだけです」
「感じわる!」
「ちょ、ちょっとふたりとも……」
くだらない言い合いを徐々に、こたつの中で足を蹴っ飛ばし合うまでに発展させるふたりにアンパンマンは声をかけて止めさせようとする。
が、
「あっ! カレーパンマンとしょくぱんまんが暴れるからゆがんじゃった!」
アンパンマンと同じ一辺に座っていたクリームパンダの悲鳴に、
カレーパンマンとしょくぱんまんだけでなく、他の面子も動きを止めた。
「どうしたの、クリームパンダちゃん」
それまでずっと彼らを見ていたバタコさんが、やっと動いてこたつへと近づいて行く。
「アンパンマンの顔が変になっちゃったよ」
茶色いクレヨンを握って、クリームパンダは頬を膨らませてスケッチブックを指差す。
そこには、へたながらも一生懸命に描かれたパン工場の皆……アンパンマン、しょくぱんまん、カレーパンマン、メロンパンナ、ロールパンナ、ジャムおじさん、バタコさんが、パン工場を背景に、 全員が全員、とびきりの笑顔で描かれていた。
「ごめんよ、クリームパンダちゃん」
「ごめんなさい」
「んもー、気をつけてよね」
これではどちらが年下だかわからない。この三人以外のメンバーは皆、同様に笑い声をあげた。
「あんあん」
「うん、チーズはこれから描くよ」
アンパンマンとクリームパンダの向かい側に陣取って眠っていたチーズが目を覚まし、こたつに潜ってクリームパンダの膝上に姿を現す。
「みんな、遊びに夢中になるのもいいけど、風邪ひかないでね」
バタコさんはそう言って、ずっと抱えていた半纏を渡す。
ようやく手が空になったジャムおじさんは、
「下からみかんを取ってくるよ。みんなで食べなさい」
部屋から出ていく彼に、
「ありがとう、ジャムおじさん」
「あんあーん!」
残った全員はお礼を言って、ジャムおじさんはそれを背中で受け止めた。
だから、家族全員が揃ったその光景に、彼が自然と浮かべた笑顔を誰も見ていない。