「あたしも一緒にパトロール行く! いいでしょ、アンパンマンおにいちゃん」
「もう、お料理した後はお片づけして、ちゃんとお皿も洗わないと。……聞いてるの、カレーパンマンおにい!」
「今から配達? がんばってね、しょくぱんまんおにいさま」

「え?」
「あ?」
「はい?」

突然のことに唖然とする彼らだったが、見開かれた目に映されたメロンパンナは不思議そうに首を傾げ、
「どうかした?」
と何でもない風に返すだけだった。
なので彼らはしばらくぽかんとした後、えらくはっきりとした空耳だったに違いないと自分に言い聞かせ、

「う、ううん。じゃあ一緒に行こっか」
「うん!」

「いや…ごめん、すぐ片付けるよ」
「あたしも手伝う」

「いいえ、あの、じゃあ行ってきますね」
「ウサ子ちゃん達によろしくね」

と、それぞれ気を取り直し、いつものようにメロンパンナに接した。
しかし、それは空耳でもなければ聞き間違いでもなく、正真正銘、メロンパンナから紡がれた呼びかけだった。

「なにごとですか」
「さあ……」
「何か悪いもんでも食べたんじゃねえのか」
こそこそと三人は顔を寄せ合い、今はるんるんと鼻歌を歌いながら窓辺の鉢植えに水をやる彼女の背に視線を注ぐ。
アンパンマンとパトロール中も、カレーパンマンとお片づけ中も、しょくぱんまんが配達から帰ってきても、メロンパンナは彼らをおにいちゃんと呼び続けたのだ。
「ちょっとお前、どうしてだか聞いてこいよ」
「いやですよ。カレーパンマンが聞いて来て下さい」
揉めるしょくぱんまんとカレーパンマンの声を背中に、アンパンマンはメロンパンナに歩み寄る。
ふたりはなんだか変に聞きにくく感じてしまっているようで、その気持ちは解るのだが、そんなに深く考えることでもない。普通に聞けば良いだけの話だ。
「メロンパンナちゃん」
「なあに? アンパンマン」
アンパンマンは微笑んで、メロンパンナが大事に育てた白いガーベラを見つめる。
「綺麗に咲いたね、その花」
「えへへ。いいでしょ。花言葉は希望なんだって」
「希望かぁ。ロールパンナちゃんにあげるの?」
「うん」
窓枠に腕を置き、更に腕に顎に置いて、メロンパンナはにっこりと笑う。彼女が彼女の姉にこの花を渡すのを想像してから、アンパンマンは口を開いた。
「ねえメロンパンナちゃん。今日はどうしてぼくたちのことおにいちゃんって呼んだの?」
「昨日ね、やきそばパンマンとやきそばかすちゃんと合ったの。やきそばかすちゃんがやきそばパンマンのことおにいちゃんって呼んでたから、ちょっと真似してみちゃった」
アンパンマンの正面に向き直り、ぺろりと悪戯っ子のように舌を見せる。
「なんだ、そういうことだったんだね」
「いきなりごめんね、気に入らなかったらもう呼ばな…」
「「ぜんぜん!」」
わっと大きな声と共に、しょくぱんまんとカレーパンマンがアンパンマンの背中にぶつかるようにして乗り上げる。
「わわわ、ちょっとふたりとも、重いよ!」
ふたり分の体重を背中に乗せ、ぐらぐらとする足をなんとか踏ん張って、アンパンマンは倒れそうになるのを耐える。
「いつでも呼んでくれよな、おにいちゃんって!」
「わたしもいつでも大歓迎です。もちろんずうっとそう呼んでくださっても結構ですよ!」
もみくちゃになりながら、アンパンマンの背中からメロンパンナを見下ろすふたりに、彼女はふふふと声を漏らして笑う。
「アンパンマンも?」
「うん」
踏ん張りながらメロンパンナに答えると、彼女はますます大きく、顔だけでなく体ごとめいっぱい使って笑った。

「みーんな、あたしの自慢のおにいちゃん!」