リビングのソファーに寝そべり、肘かけに足を打っちゃって、コンビニで買ってきた雑誌を眺める。
「あ、駄目ですよ、女の子がはしたない」
ベランダに干していた服やタオルを取り込み、それを積んだバスケットを抱えて部屋を横切ろうとしたしょくぱんまんが声をかける。
「っさいわねー」
惜し気もなくチェックのプリーツスカートから伸びる脚を晒し、少女は爪先をぴょこぴょこ揺らして遊ぶ。
ページを捲っていると、今月号の特集に差し掛かった。
「ねえあんた、これどう思う?」
脚を大きく振り上げ、反動をつけて一気に上半身を起こす。ちょうどその横を通り過ぎようとしていた彼は、何かあるなと咄嗟に判断し、床にかごを置いた。その目前に、広げた記事を突きつける。
しょくぱんまんは数秒間、少女が指す雑誌のモデルの服装を眺め、そして
「きばつ」
「きみに聞いた私が間違いだった」
お互いにばっさりと切り捨て合って、少女は再びソファーに身を沈める。しょくぱんまんはバスケットを再び抱え、カーペットが敷かれているところに正座して、洗濯物を畳み始めた。
数分後、彼女が贔屓にしているアイドルグループの最新曲が部屋に響いた。
音のありかは携帯電話だ。少女は鞄を探り、それを取り出す。
「……あ」
メールの差出人の名前に、思わず声を漏らす。唐突に起き上がり、しゃんと背筋を伸ばして座る。
どきどきしながらそれを開いて、文面に目を通す。
チームメイトの男の子からの、休日の遊びの御誘いだった。
これって、これって……!
小さなメカを握りしめ、ぷるぷると震えだした彼女の背中から、しょくぱんまんが顔を覗かせる。
「男の子ですか」
「っわ!」
驚いて携帯を持つ手が滑り、わたわたと両手をばたつかせ、それでも落とさない様にキャッチ。
ほっと息をついてから、少女は自信たっぷりにしょくぱんまんを振りかえった。
「そ、そうよ! へへ、いいでしょう。ふふん。あたしも隅に置けないわよね」
「自分で言っちゃいますかあ。楽しんできて下さいね」
言って、再び洗濯物の小山に向かおうとしたしょくぱんまんだったが、
「あの」
そのマントは少女にがっしりと捕まえられていた。これでは移動できない。
少女からは先程の勝ち気な表情は消え失せ、ぐるぐると目を回し、彼のマントをめちゃめちゃに引っ張った。
「おおおお願いしょくぱんまんあたしデートなんて初めてなのついて来てぇ!」
「えええ!?」
ゆさゆさと揺らされて、しょくぱんまんは素っ頓狂な声を上げる。
「それくらいひとりで行って下さい。というよりひとりで行かないと! 大丈夫です、誰かは知りませんけど、その男の子に任せれば…」
「やぁめてよぉ! 世の中の男全部が全部あんたみたいに紳士じゃないのよ、やさしーくエスコートやリードしてくれるタイプばっかりじゃないの!」
彼女は、びっ! と風を縦に斬り裂いてしょくぱんまんを指差す。
「どうせ元いたところでも片っ端から女の子をちやほやして、そんで女の子達からちやほやされてきたんでしょう」
「別に、片っ端からちやほやなんてしてませんし、されてません。老若男女誰に対してもヒーローでありたいから、それに相応しく振る舞ってきただけです」
「ははあ、女の子限定紳士じゃなくて誰にでも紳士なしょくぱんまん様だったわけね。さっすがあ」
「んん…とっても引っかかる言い方ですけど、まあそういうことです」
今一胸を張れない言い方に、しょくぱんまんは口籠りながらも否定はしない。
しないが、ふと思いついたように彼女に向き直った。
「あ、そうだ、冗談でもわたしに様付けなんてしないで下さいね」
「あれ? 謙遜してるの? しょくぱんまん様」
「いいえ、そうじゃなくて、うーん……なんて言えばいいのかなあ」
眉根を寄せてほんの少しの間考え込む、しかし明瞭な答えは出せないようだった。
彼女がじっと見つめて答えを待っていると、しょくぱんまんは困ったように笑った。
「とにかく、わたしをそう呼ぶのはひとりだけで十分です」