目が覚めると家に一人きりだった。
夜に働き昼に眠る商売をしているお妙なので、起きたら新八はもう万事屋に出勤していたということは間々ある。
まず障子を開けて光を呼び込み、布団を上げて、そうして家を出て行く前に新八が働いた跡を辿りながらお妙は一日を始める。
食卓の上に並べてある朝食兼昼食を食べて、庭に干されていた洗濯物を取り込む。
日光をたっぷり吸いこんでふわふわになった衣服を籠に放り込み、縁側で畳む。
自分のものは自室の箪笥に、弟のものは彼の部屋まで届ける。厠の手拭いを新しいものに変え、バスタオルは脱衣所へ…と、乾いた洗濯物をそれぞれの場所に運ぶのにあちらこちらへ移動しなくてはならない。
ついでにその途中で通りかかった、普段は使わない部屋のふすまと障子を開けて換気を行う。
使わない部屋でも、時々はこうしてやらないと空気が澱んでしまう。その部屋の多いこと。なにせ、ふたりで暮らすには志村家は広すぎる。
道場の拭き掃除をしている時なんて、父が健在で、門下生たちで賑やかだった頃を思い出してしまって、お妙は我が家の広さを身に染みて感じる。
薄い足袋越しにしんと床の冷たさが伝わり、そっと息を吐く。空虚を見つめて、お妙は呟いた。
「…どうせいるんでしょ」
長い沈黙が続いたのち、そろぉーっと軒下から這いずり出てきた近藤に、
「やあーっぱいやがったなこのゴリラぁ!」
「ほぎゃああああ!」
電光石火の早業、道場から飛び出し、その顔面に蹴りを降らせたお妙は活き活きとしていて、その活きの良さは蹴られている近藤くらいしか、それも打撃の痛みを伴わせないと到底誤魔化せなかった。
つまり、彼女の様子の一連を傍から誰かが見ていたら、例えば新八がいたのなら、「一気に元気になりましたね」くらいは言っていたことだろう。
「おぐっ、いやだってなんか呼ばれた気がしたからァア!」
「お前なんて誰も呼ばねーよ!!」
この男はやかましいから、一気に五人ほど人が増えたみたいだわ。
そう思うお妙だって、今は三人分くらいやかましい。