「ちくしょおぉお」
優勝者のどんな願い事でもひとつだけかなえてくれるハジケ大戦が終了し、みごと優勝を逃した首領パッチは、不機嫌そうに地面に座り込んだ。
「残念だったね」
さっきまで、自分も大戦に参加して願い事をかなえたいと言っていたビュティが首領パッチの隣に座った。
「オレの身長150メートル……」
「……単位違わない?センチじゃない?」
やんわりとつっこんでみたものの、自分と大して変わらない身長の首領パッチを想像してしまったビュティは、あまりの不気味さに寒気がした。自分と同じ目線に来られるより、何百倍と大きい首領パッチに見下ろされた方がまだましかな、とすら思う。
「男はやっぱビッグじゃねーとな」
まさかビュティが自分の望んだ姿を想像して、ましてやそれを不気味に思っているだなんて夢にも思っていない首領パッチだった。
「ゴジラでも100メートルなのに」
そう言ってみたものの、案の定、首領パッチは聞いていない。
「てゆーか」
首領パッチは、遠くにいる仲間達が大騒ぎしている様子を見た。
「結局あいつの願い事って何だよ?」
首領パッチが指を差したのは、天の助と田楽マンの主食争いを止めようとしているヘッポコ丸だった。
「んー、なんか私に関係あるみたいだったね」
ビュティが苦笑いして言いにくそうに言った。
「あいつオレが口挟んでなくても願い事最後まで言えてねーと思う。バレバレだし」
「あー…うん。確かにバレてる、よねー」
あはは、と困っているのか、そうでも無いのか、どちらでもない笑い声を小さく上げるビュティを横目でチラリと見て、首領パッチは立ち上がった。
鈍感なビュティと言えど、顔を赤らめた異性からそう何度も見つめられたりなどしたら、いい加減気付いてしまう。それは今回のヘッポコ丸の願い事でより一層明らかになった。
「まー、最後まで言えたとしても、このオレが黙っちゃいねえよ」
両手をぎゅっと握り締めて振り回す首領パッチを見て、ビュティはさっきのような声を上げる笑い方とは違って、自然な笑顔を浮かべた。
「それはありがとうって言っていいのかな?」
「おう、言え!」
「じゃあ、ありがとう」
「しゃーねーな。どういたしまして」
首領パッチが元気良く歯を見せて笑うと同時にビュティも肩をすくめて笑う。このふたりにはその他大勢の喚き声は聞こえないようだ。
「おっし、今からみんなの所行って、ヘッポコ丸の願い事力ずくで聞き出してやる」
ネギをぶんぶん回し今にも走り出しそうな首領パッチを、ビュティが慌てて止めた。
「でも、けがさせないでね」
「えぇ〜?」
ぶう、と小さな子供の様にほっぺたをふくらませ、首領パッチはくるりとつま先で一回転した。すると、首領パッチの顔に厚化粧がほどこされていた。
「じゃあ、この私のお色気でこんな小娘よりパチ美の方がずっと良い女ってこと解らせるんだから」
首領パッチがいきなり女装するのはいつもの事なので、ビュティは何も言わ無いでおこうと首領パッチからネギを取り上げて地面に置き、自分は正座に座り直して、首領パッチを自分と向き合うようにひざの上に乗せた。
「はいはい。私みたいな小娘よりパチ美お姉様の方がずーっと良い女ですよー」
首領パッチの一番上のトゲを突きながら、ビュティがいたずらめいた口調で言った。
「そうよ、少しは私の美貌を見習いなさい」
「…首領パッチくんが優勝しなくて良かった」
腕をまわし、首領パッチを抱きしめてビュティがつぶやくと、首領パッチはむっとした。
「んだよそれ」
「だって150メートルだったらこんな風に抱っこできないでしょ?」
そう言われ、首領パッチはたった今気付いたらしく、きょとんとした。
「オレそんな事ぜんっぜん考えてなかった」
やっぱりねとビュティがふふっと笑った。
「あ、でもよー」
「なーに?」
「150メートルあったらオレがビュティを抱っこできるな」
首領パッチがちょっと目線を上にしてビュティを見た。
今度はビュティの方がきょとんとする番だったが、空をも隠す大きな首領パッチの白い手の平にちょこんと座る自分の姿を描いてみて、笑みが顔中に広がっていった。
「そーだね。それもいいね」
だろ?と笑う首領パッチにビュティは笑みを絶やさずうなずいた。