「変わったね」
一年そこいらで人ってこんなに変わるっけ、とビュティは首領パッチを見て疑問に思ったが、そうだこいつは人じゃないんだ、じゃあ変わっても別におかしくはないのかな、と考えることで落ち着いた。
「お前はもうほんっとぜんっぜん変わってないな」
服しか変わってねえ、と首領パッチは付け足しながらビュティのベルトを人差し指で弾いた。変わっていないのは自分の方なのだけれど、戦いで人や自分を傷付けるのはもう嫌だと言ってみたところ、ボーボボもビュティも簡単に騙せた。
「なんで服変えたんだ?」
それと背、伸びたんじゃねえの、と首領パッチは不機嫌な声を出した。気に入らない、身長の差は一年前からあったけれど、実はそんなに開いたわけではないのだけれど、とにかく気に入らなかった。
そのにじみ出た不機嫌さを見て、ビュティは「ああやっぱり」と心で呟いた。奴は全然変わっていない。戦いたくないなんて嘘だと、彼が主張したときから思ってはいたけど、それが今確実になった。口では嘘を吐けても顔には本音が出てしまう、賢くない愛しい人……人?
「前のやつね、ちょっときつくなっちゃって」
あははと笑ってビュティは頭をかく。
「太ったんだろ」
意地悪くにやりとした首領パッチが言うと、
「ん、そーゆーこと」
とビュティは何故だかえへんと胸を張った。
良かった、その憎まれ口は一年たった今でも健在だ。ふたりは殆ど同時にそう安心した。あれ、なんで「良かった」なんだろう。憎まれ口なんて無い方がいいのに。そう疑問になったのもこれまた殆ど同じタイミングだった。


ボーボボとしゃべるコアラに手を振って呼ばれたので、ふたりは駆け出した。
「それだけ?」
ビュティは、ぶーとほっぺたを膨らませた。
「何が?」
もう服がどうのこうのの会話は一件落着したと首領パッチは思っていたので、ビュティが何を言いたいのかは誤魔化しなんかじゃなくて本当に解らなかった。
「女の子が着たきりすずめだった服を変えたのに?太った、だけじゃちょっと酷いんじゃない?」
もっと言うことがあるだろう、とビュティは会話の中ごろから思っていたのだが、会話が終わってもその『言うこと』は首領パッチの口から流れてこなかったので、とうとう自分の方から言ってしまった。
「え? ああ……」
ビュティの言う『言うこと』に気付いた時、首領パッチの足は止まりそうになった。でも、それを言う為に止まったのではしゃくなので止まりかけた足を無理やり動かした。気恥ずかしい。そんなん言いたくない、かもしれない。本当は言ってみたい、かもしれない。自分のことなのにどうしてこうも理解不能なのか。
言っても言わなくても気恥ずかしいのだったら、一年ぶりに会えた仲間の頼みだ、言ってやろう。
ただし、絶対に目を見て言ってやんない。首領パッチは自分の足だけを見つめて口を開いた。まだ最初の一文字すら口にしていないと言うのに、全身が熱い。
「そっちのが、かわいい」
「えへへ」
自分から催促したと言うのに、実際に「かわいい」なんて言われ、妙に胸がくすぐったかった。それを首領パッチに見られたら、きっと恥ずかしいのと格好がつかないのとで、調子が狂ってしまいツッコミすらままならなくなるだろう。なのでビュティは慌てて顔を空へと向けた。首領パッチが自分を見上げても朱の射した顔を見られないようにと。
真下を見つめて走っていたのに、その実は注意散漫となっていた首領パッチと、真上を見上げて足元どころか進行方向すら目を向けていなかったビュティが、勢いよくすっころんで、気配を読んでくれて近くまで来ていてくれたボーボボの胸にタックルするように飛び込むまで、あと8秒。