大人ぶってて子供扱いされたらすっごく怒るけど、舌はやっぱりお子様だよね。と昼食の席でビュティが首領パッチに言った。
え、誰のこと?と首領パッチは聞いたが、もう一回言ってみろ、などという脅しや、とぼけて分からない振りなどをしたのではなく、本当にビュティの言うお子様な舌が誰か分からなかったのだ。
「首領パッチ君以外に誰がいるのよ」
そういってビュティは自分の箸で隣の首領パッチの皿を指した。そこにはまったく手を付けていないニンジン、フォークで何度も何度も突き刺したが結局、首領パッチの口には運ばれなどしなかったピーマン、辛いのは嫌いだと言われて放っておかれた玉ねぎが散らかっていた。
「だって」首領パッチは魚雷ガールに、好き嫌いする奴は許さないと、ついさっき怒鳴られた事を思い出し、辺りを見回した。
みんなもう食べ終わってどこかに行ってしまったようで、野原にでんと置かれたテーブルの周りにはふたり以外誰もいなかった。
「まずいから」
やっぱりね、とビュティは自分の茶碗をテーブルに置いて首領パッチの方に体ごと向いた。
そしてピーマンを一つまみ箸で取った。
「はい、あーんして」
「え、なんで」
そのままビュティが自分の分の野菜を食べてくれるかもしれない、と密かに期待していた首領パッチは突然目の前に臭いを嗅ぐのも嫌な食べ物を突き付けられて、ひどく面食らった。
「なんでって、野菜食べないと体に悪いからに決まってるでしょ」
ビュティはそれだけ言って、箸をまったく動かさなかった。
「ほら、あーんって」
仕方ない、と首領パッチはため息を吐きたくなるのを我慢した。ビュティはたまに頑固になる、今まさにそうなっているだろう。ここで何とか逃げ切ってもきっと次の食事にこの事を持ち込まれるだろう。それで他のみんなにうるさく言われるくらいならここで何とかしてしまおう、と思ったのだ。
「あー…」
首領パッチは思い切って大口を開け、ぎゅっと硬く目をつぶった。途端に、ぽいとピーマンを口の中に放り込まれ、じんわりと苦い味がいっぱいに広がった。
「にがっ」
「でも」
ビュティは箸を下ろしてぱちぱちと手を打った。
「食べられたね」
あまりの舌の不愉快さに首領パッチは涙が出そうだった。そんなことは露知らず、
「よかったね、やったね」
ビュティは笑った。そのあまりに爽やかな笑顔に首領パッチは涙もどこかに飛んで行き、
「お前は本当世話焼きだよな」
と言わずにはいられなかった。