ぎゅう、とビュティは首領パッチを抱きしめた。後ろから。
むう、と首領パッチはうなった。

後ろから抱きしめられるのは、正面からのより苦手だ。

奴の鼻がオレのてっぺんのトゲをすりすりするから苦手だ。
てめえの鼻の脂がオレのチャームポイントを汚してんだよ。
お前は犬か、そりゃあマーキングか?
そんなんしなくてもオレはどこにも行きゃあしねーよ。ボケが

奴の髪の毛がオレのほっぺたの上をちろちろするから苦手だ。
ちくちくすんだよ。それとくすぐってーよ。
なんかむずむずすんじゃねーか、止めろって。

奴の腕と足がオレの前に周るから苦手だ。
なんかこう、妙に落ち着いちまう。
正面からぎゅーってやられると、ぎゃーって手足ばたばたさせて抵抗できるんだけど、後ろからすっぽりってやられるとなんでか大人しくそのままでいちゃったりしてな。

奴の息がオレのほっぺたにかかるから苦手だ。
なんかなんか、ふうって息吐かれると、ぞわあーってする。
気持ち悪いんだかくすぐったいんだか分かんねーから厄介だ。
ひいいって仰け反りたくなる。それ言ったらなんか笑われた。
笑うんじゃねえよ、お前のせいだろ!!

奴の腹がオレの背中に当たるから苦手だ。
いやあれは乳じゃねーよ。腹だ腹。当たるほどねえよ。
まあ腹だろうが乳だろうが、なんかぷにぷにしたのが背中に当たってるってのは、なんかほっとする。
あーオレ今人間と触れ合ってるんだなーって思っちまう。なんでだろ。

奴の心臓がオレを押すから苦手だ。
どくどく言ってるのが分かる。血が流れてるって分かる。生きてるって分かる。
天の助のいびきも大嫌いだけど、それに勝つ勢いでこの心臓の音も嫌いだ。
ちょっと聞いただけですぐ泣きたくなるから。
もう、どーなってんだか。



ぎゅう、とビュティは首領パッチを抱きしめた。後ろから。
むう、と首領パッチがうなったが、ビュティは聞こえないふりをした。

後ろから抱きしめるのは、正面からするのより好き。

首領パッチくんのてっぺんのトゲが私の鼻の位置に来るから好き。 思わず、すりすりしてしまう。犬みたいだなと思っていたら、首領パッチくんに同じこと言われた。
それで、自分のだ!!って主張するために自分の匂いをつけるワンちゃんの気持ちがなんとなく分かった。
この匂いがここについている限り、私は彼を見失うことは無い気がした。 気がした、それだけなんだけど。

首領パッチくんのほっぺたが私の横の髪の位置に来るから好き。 私の髪は、私がそうしろって言った訳でもないのに、首領パッチくんのほっぺたに吸い寄せられる。 静電気かな?
朱色のほっぺたに乗る桃色の髪は、当然だけど全く色がはっきりしなかった。それが桃色だって分からないくらいに。

私の腕と足を首領パッチくんの前に周せるから好き。
すっぽりと首領パッチくんが、私があぐらを組んだせいで空いたところにはまる。
ジグソーパズルのピースみたいにぴったり空きが埋まってしまう。
まるで、もともとひとつだったけど離れてしまったものが、再びひとつになったみたいで、私は彼との隙間を一ミリも許したくなくなる。

当たり前だけど、私の息が首領パッチくんにかかる。当たり前のそれを、彼に言われるまで気付かなかった。
くすぐってえ!!って叫ばれて、えっなんのこと?って言ったら睨まれた。
本当になんのことだか分からなかったのに。
なんか、私の息がかかると気持ち悪いのとくすぐったいのが一度に来るんだって。
気持ち悪いって、心外だ。思わず笑ってしまった。お前のせいだと言われるのが、今日は何故だか嬉しかった。
これも、後ろからのが好きな理由に入れちゃおう。

え、お腹が当たるの?それお腹じゃないって、胸だよ!・・・って言えないのが悲しい。
だってそれ、正真正銘お腹だもん。悔しいけど、当てられるほど胸は無い。
これは、好きの理由には入れないでおこう。
だって、そんなの言われるの好きじゃないしね。

私の心臓の音が首領パッチくんに響くから好き。
生きてるよって言う代わりに、私は心臓を押し付ける。
私は、強くないけど、弱くもないつもりだから。
変なの。心臓の音を聞いて落ち着くのは赤ちゃんだって言うのに、私は何をしてるんだろうね。